秋風と母

 尾崎士郎坂口安吾に宛てた書簡を読んでいると、尾崎氏の豪放磊落、大らかな性格が伝わってくるようでとても気に入り、小説作品を読んでみたくなった。尾崎士郎といえば『人生劇場』なんだろうけど、安吾ファンとしてはやはりコレというわけで、安吾撰輯による尾崎士郎の短編集『秋風と母』を読んでみた。
 実際に収録作9編を読んで感じたのは、豪放磊落という書簡のイメージとは違い、けっこう繊細な人だったんだなあ、ということ。だから安吾と気が合ったのかも知れない。「春の夕暮」や「鶺鴒の巣」など、少年時代の孤独感を感傷的に描くかと思えば子供らしい残酷さをサラリと描いてみせたりと、奥行きのあるいい作品が多かった。でも一番気に入ったのは「鳴澤先生」。元英語教師で今はルンペンをしているナルザワ先生が、クズ屋に“いっそのこと俺を処分してくれ”という最後の場面なんか、一つ間違えば悲話になりかねないのに、本当に体をぽきん!と折られて処分されちゃうんだから、なんとも“ファルス”な逸品に仕上がっている。いかにも安吾セレクトらしい作品だ。
 そういえば、安吾尾崎一雄との対談「文学と人生」を読んだとき、進行役の「編集者」がやけに出しゃばりで図々しかったので、いったいこの失礼な編集者はどこのどいつだと巻末の解題を見てみたら、尾崎士郎だった。
 なんかいい〆の文章(オチ)が見つからないな。このあたりでこの書き込みはおしまいだ! 莫迦にするな!(坂口安吾「西東」より)