手製本とたい焼の魚拓

 目黒区美術館区民ギャラリーで開かれていた東京製本倶楽部の展示会「本の国・本のかたち」を見にいった。一山いくらの市販本とは違い、1冊1冊丁寧に手製本された芸術的な書物がたくさん展示されていて、なんだか恐れ多いような雰囲気。本の開き具合を、中身と表紙の付け方、背やクータの形状などを変えて実作した十数種類もの本で検証したコーナーなど、より良い製本を追求する姿勢に感心させられた。
 その帰り道、弘南堂書店という古本屋があったので立ち寄った。そこで見つけたのが市販本『たい焼の魚拓』(宮嶋康彦、JTB)という本(ルリユール版が区民ギャラリーにもあった)。宮嶋氏は、本職はカメラマンらしいのだが、ひょんなことからたい焼の魚拓を採りはじめ、以来20年分の成果がこの本ということだ。たい焼屋さんに関するエッセイと、そこで焼かれたたい焼の魚拓が掲載されており、魚拓のそばには、体長、体高、体重、値段、採取地(お店の住所)といったデータまで添えられている。帯には大きく「焼きたて!!」の文字が。あまりにバカバカしくて面白かったので、大枚1000円をはたいて200円お釣りをもらった。ちょうど区民ギャラリーで見た書物たちがあまりに芸術的すぎたため、よけいにこの本のバカバカしさが魅力的に映ったのかもしれない。
 一口にたい焼といっても、大きさも形も千差万別だということに初めて気付かされた。魚拓はすべて奇数ページに印刷されているので、パラパラ漫画の要領でページをめくると1つ1つ違うことがよくわかる。でも、この本には載せられなかった魚拓がまだたくさんあるようで、あとがきには「いつの日か、全貌をお眼にかけたい」とあった。ぜひお目にかかりたいものだ(注、宮嶋氏は魚拓を採ったあと、ちゃんと2枚におろして墨が付いていない部分は食べているらしい)。そういえば、『カラーになって魚拓も本望』(京都書院)なんて本もあったな。神田の古本市で買った本だ。室生犀星の『蜜のあはれ』(新潮社)の函には、金魚の魚拓がグラビア印刷されていた。たしかその魚拓を採ったのは栃折久美子さん。ん? 微妙につながった。
たい焼の魚拓 単行本 カラーになって魚拓も本望―さっそく腕まくりして、あなただけのカラー魚拓に挑戦してみよう。 (京都書院アーツコレクション)