ぶどう酒びんのふしぎな旅

 飯田橋にある印刷博物館に「アンデルセン生誕200年展」を見にいった。国内外で19世紀から現在までに出版されたアンデルセンの本がたくさん展示されていた。解説文によると、作品に挿絵を入れることはアンデルセンの本意ではなかったそうだが、ついつい華やかな挿絵入り本に目がいってしまう。とくに一冊、強烈に惹き付けられたのが『ぶどう酒びんのふしぎな旅』(挿絵・藤城清治、1950年)。本文はセピア色、挿絵は墨一色(多分)という、どちらかというと地味な本だが、挿絵が抜群に美しかった。色にとても深みがあり、本当に墨だけなのかとつい疑ってしまったが、作品解説に「挿絵はグラビア」とあるのを見て納得。なるほど、これが“グラビア印刷のコク”というやつか。
 他の本の挿絵にも、木版や石版、銅版画など、色んな印刷技術が使われていて楽しかった。平版のオフセット印刷が、まるでブラックバスのように他を駆逐していく前に作られた本なんかは、一冊の中に複数の印刷技術が使われていたりして、とても贅沢な気分にさせてくれる。それに、今ではすっかり“アート”の世界に行ってしまった石版画や銅版画が、印刷物としてしごく当然のように本の中に収まっているのを見ていると、なんだか牧歌的な気分にすらなってくる。
 家に帰ってから、さっそく古書検索サイトで『ぶどう酒びん〜』を探してみたが、結局見つからなかった。ガラス越しではなく、手に取ってじっくり眺めてみたい……。でも、著者も挿絵画家も有名人だし、たとえ見つかっても手が出ないだろうな。