『恋空』をじっくり読む1

 岩本素白を読みながら、やっぱり日本語っていいなぁ、日本人に生まれてよかった、などと大げさなことを感じていた。で、次に読む本、明治から昭和初期ぐらいまでの日本語を探そうと書店に行って真っ先に目に留まったのが『恋空 〜切ナイ恋物語〜』(美嘉、スターツ出版)。いまさら、と思いつつも、一度はケータイ小説を読んでみたいと思っていたのと、1冊1000円と予想より安かったのでつい上下巻とも衝動買いしてしまった。ハードカバーだから1冊1500円ぐらいだろうと勝手に思い込んでいた。しかしまあ、“明治から昭和初期の日本語”がケータイ小説に化けてしまうとは。

 せっかくなので、上下巻2冊をじっくり読んでいくことにした。それもわざわざ紙の書籍を買ったのだから、紙ならではの部分からじっくりと。というわけで、まずは表紙回りから。
 帯の印刷は4色でPPが貼ってある。表1側には大きな目立つ文字で「映画化決定!」とあり、すぐ上に「140万部突破!! 魔法のiらんどから生まれたケータイ小説」の文字が。140万部! 本当か? 想像もできない数字だ。横には金髪の男の子(日本人)と可愛い女の子がおでこをつけている写真。「出演:新垣結衣三浦春馬小出恵介」とあるので、男の子は三浦君か小出君のどっちかなんだろう。新垣ということは沖縄の娘か。新垣渚が男だから結衣もまさか……てこたないか。ググってみるとやはり沖縄出身の女優、歌手、モデルだった。そのわりには色白に見える。なかなかのべっぴんさんだ。なんか印刷の色が浅いな〜。輪転っぽい色だな。175線にちょい足りない。表4側には「こんなにも切なくて、/こんなにも苦しいのに、/なぜか温かい…」の3行。三点リーダーが一個だけなのが気になる。
 ジャケットは紙ではなく透明シート。白、赤、黒の3色(+透明ニス?)が裏刷りになっている。175線。多分UVオフ。タイトルは手書き文字で、上下巻を並べるとバックのハートマークが揃うようになっている。なかなかカワイイではないですか!
 ジャケットをめくると表紙には空の写真。めくるまでもなく透明シートだからもともと見えているのだが。上巻は夕焼けか朝焼け、下巻が青空。4色175線。タイトル、著者名、出版社名が背だけに白抜きされている。
 表紙をめくると、薄い黄色の見返しがでてきた。芯ボールはかなり薄い。続く本扉はキララ紙を模した別紙に薄い赤1色。白抜きで雪の結晶。次の中扉から共紙で墨1色のタイトルのみ。
 中扉をめくると、導入部といったらいいのか、9行だけの断章が見える。センター揃え。ウロコが目立たないソフトな明朝体。どこの書体だろう。「恋は思い通りにいかないもの…。/だけど…/だから…/追いかけてしまう。」で始まり、「衝撃的な結末があなたを待っています。」とある。むむむ、衝撃的な結末とは楽しみだが、先は長い。まだ第1章にすら辿り着いていない。本文はアジロ綴じ。
 次でやっと目次が出てきた。これまた可愛い書体だ。ググってみる。ぶどう-Lというやつか。「一章 恋来/二章 恋涙/三章 恋迷」とあるので、下巻も恋○と続くのだろう。恋尽くしだ。目次裏にイラストレーターとデザイナー名。そしていよいよプロローグという文字が。やっとここまで辿り着いた。プロローグの扉は墨1色、墨文字のバックに平網、白抜きで雪の結晶。133線。
 扉を開けると改ページでプロローグ本文が。「もしもあの日君に出会っていなければ/こんなに苦しくて/こんなに悲しくて/こんなに切なくて」。リュウミン-Lか。「涙こらえて私は今日も空を見上げる。/空を見上げる」。書き写していて、別の意味でこちらまで切なくなってきた。岩本素白とのギャップが激しすぎる。でも太宰治だと思って読めばそれほどギャップはない……いや、やっぱりあるな。むちゃくちゃ簡単な文章なのに、こうやって書きながら読んでいるとえらい疲れてきた。第1章に入る前に少し休憩。

恋空〈上〉―切ナイ恋物語 恋空〈下〉―切ナイ恋物語