読書

フィロソフィア・ヤポニカ

中沢新一著『フィロソフィア・ヤポニカ』。京都学派の哲学者・田邊元(田辺元・たなべ はじめ)がまとめた「種の論理」という思想に関する解説書で、カバー、表紙、扉へと続く隙のない装丁に惹かれてつい買ってしまったのだが、中味を読んでびっくり。 「種…

死霊

埴谷雄高著『死霊』。とにかくもう凄い作品です。 その名状しがたい幅の怖ろしさをまざまざとお前の眼前に思い浮べるためには、いいかな、思いのほかに詩人らしい閃きもあるお前がまさにこれまで持っていた胸のなかのがらくたの一切を投げ捨てその純一無垢の…

紙につられて

久しぶりに村上春樹を読んだ。売れに売れている『海辺のカフカ』。春樹節を久々に堪能、といきたかったが、少しがっかりした。とくに田村カフカの父親の予言(エディプスコンプレックスもどき)のところで白けてしまい、読むのを止めようかとも思った。子ど…

安吾論は詰まらない

これまで読んできた坂口安吾の作品に関する評論の大半は詰まらないものだった。それは、それらのほとんどが坂口安吾という著者の人物像や生き様に引きずられすぎているように思われたからだ。とくに安吾と同時代に生きていた人々が書いたものにその傾向が強…

『銀河鉄道の夜』

『銀河鉄道の夜』は宮沢賢治最大の長編であり、未完成の度も、最もはなはだしいものである。文字のぬけている所もあり、錯簡も少なくないと思われる。行文の推敲のあとも著しい。いわば永遠の未完成作品というべきものである、らしい。最終稿ではすべて削ら…

『焼跡のイエス』

石川淳のこの作品は、『新潮』(昭和21年10月号)に発表された。 昭和21年の7月の晦日、「わたし」が谷中の寺へ太宰春台の墓碑名の拓本をとりに行く途中、上野の闇市でボロとデキモノとウミとおそらくシラミとのかたまりのような少年を見かけ、その少年に山…