『恋空』をじっくり読む6

 ※かなりストーリーについて触れるので、これから『恋空』を読もうと思っている人は、下の文章は読まない方がいいです(最初は→『恋空』をじっくり読む1)。
 
 「六章 恋旅 koitabi」。
 大学に入って初めてのクリスマス・イブ。美嘉は優と同棲中。二人でイチャイチャしたあと美嘉はまた公園の花壇に向かう。そこにいたのはなぜかノゾム。「なんでノゾムがここにいるの? 教えて??」「聞いたら美嘉の人生変わるかもしれねーよ?」でノゾムの話の内容は「ヒロは癌に侵されている」。「…高校二年の夏。/ヒロが変わってしまったあの時期」「突然別れを告げた理由。/それでも自分の存在を忘れてほしくなくて、わざと美嘉の友達と付き合ったりして美嘉の近くにいようとしてたんだって…」美嘉は、なんてヒドい男だ、ミヤビが可哀想、とは思わず「ヒロの精一杯の愛だったんだ」と感動する。ひとまず優のもとへ帰り事の次第を説明、優は一度ヒロに会ってどっちにするか決めなさい、とのこと。
 病院でヒロに会い、ゆれ動く美嘉。誰にも相談せず、「大切な事だから…だからこそ自分で答えを決めたいんだ。」と思いながらMDをプレーヤーに入れて再生、浜崎あゆみの「who...」が流れ出し、「美嘉は曲が終わると同時に立ち上がった。/この曲を聴いて頭に思い浮かんだのはただ一人。」でヒロを選ぶ。「この曲が最後の決断をくれた。」自分で答えを決めたいと友達には相談せず、浜崎あゆみに背中を押してもらう。すごい、すごいよ、美嘉。
 で優と別れてヒロの病室に行くと、先にヒロの方から「俺、今、美嘉に彼氏がいんの知ってっけど、でも好きなんだよ。もう絶対離したりしねぇ。だから俺のところに戻ってこい」。癌だからと美嘉のことを思って別れたのに、病状が進んでからこう言ってしまう信念のないヒロ。人間って弱い生き物です、ということを言いたかったのか。
 美嘉は、「優を離し(ママ)ヒロを選んだ事実は…一生変わる事はない。/優につけた傷を、これからも一生背負っていく覚悟はあるよ」。そんな軽々しく宣言していいのか? 他人の人生を本当に背負えるのか? でも美嘉にとっては、“傷つけた優を一生大切にしていく”というのではなくて、“二度と会わないかも知れないがたまには思い出す”程度の意味なんだろう。
 そういえばタツヤの時もこんな台詞があったな。上巻の始めの方だ。タツヤがヒロをかばって退学になったとき、「タツヤの将来を奪ってしまった。/…それはとてつもなく重い事実。/つぐなってもつぐなっても許されない罪。/二人はその事実を一生背負い、そして一生忘れずに生きていくことを強く誓い合った。」でもタツヤはその後ぜんぜん出てこない。いや、1ヵ所ぐらい出てきたか? でもその程度だ。
 ヒロとよりが戻った美嘉は、毎日病室に通う。そしてまたクリスマス・イブ。美嘉はテレビ電話機能付きのケータイをヒロにプレゼントし、公園での墓参りを中継する。「『ヒロ、お供えしたの見える!!』/『…おぅ』/『じゃあ一緒にお参りしよう??』/目を閉じて手を合わせる美嘉。/電話の向こうでもヒロが手をたたいている音が聞こえる。」手をたたくって、神社か! で6章終わり。

恋空〈下〉―切ナイ恋物語