『恋空』をじっくり読む4

 ※かなりストーリーについて触れるので、これから『恋空』を読もうと思っている人は、下の文章は読まない方がいいです(最初は→『恋空』をじっくり読む1)。
 

 都が京から東の方へ移され久しく忘れていた戦で血なまぐさくなった頃京の西陣で、桓武天皇の頃から染物屋を代々営んで来たのが商いが上手くいかないわけでもないし金繰りに困ったわけでもないのに店をたたんで娘のトヨを連れ二人天王寺から白浜へ、さらに南へ下って西国三十三ヵ所の一番札所をめざして湯治の旅に出た。染物屋は八兵衛、齢は四十を出たばかりで十二のトヨの他に十になる男の子がいるがそれは引き連れず、家業を棄ててトヨ一人連れているとは、トヨが湯治を必要とする病にかかったのか、それとも八兵衛が病にかかり十二とは言えわが種によって出来た娘に介抱させるつもりだったのか、記録する者は残していずただ唐突に八兵衛が見事な燃えるような緋色の纐纈染めの反物を所持していて巡査に捕まったとあるだけである。

 無性に中上健次が読みたくなって我慢できず「勝浦」を読み返した。けっして優等生の日本語ではないが、文章と内容がピタッとはまっている。やっぱりこれが小説だよなあ。なんてことを考えたのだが、自分が辛気くさい団菊ジジイになりかけているような気がしてきた。いかんいかん。気を取り直して「恋空」に戻るぞ。考えようによっては「恋空」も、優等生の日本語ではないが文章と内容がピタッとはまっているのかもしれん。
 
 「三章 恋迷 koimei」。
 高校2年の3学期、町なかで妊娠中の咲と出会い「本当ごめんね」と謝られる。ヤマトだとかイズミだとかシンタロウだとか優だとかと遊園地いったり温泉いったり。そのうち優の部屋で自分の過去を明かす美嘉。

 優はその涙を指先でふき取り、フフッと微笑んだ。
 「…ほんまに強がりやな」
 まだ泣き虫は、当分卒業できないみたいだね。
 いったんベッドから出てティッシュを二枚取り、美嘉の鼻に当てる優。
 「ほら、チ〜ンせい!」
 「あ〜い…ぶひーぶひー」

 なめとんのか。
 異様に優しい優と美嘉は付き合い始める。で、あの日から3度目のクリスマス・イブがやってきて今年も近所の公園の花壇にお墓参りし、ヒロと鉢合わせする。しかし美嘉は優のもとへ帰っていく。書く人が書けば感動的なシーンになるんだろうけど、ぶひーの後じゃ涙も出ない。ここで3章終わり。
 
 次ページには“この本の売り上げの一部をユニセフに寄付する”と書いてある。著者の意向か。あと、“飲酒、喫煙に関する表記がありますが、未成年者の飲酒、喫煙等は法律で禁止されています”とも。こんなこと断るまでもないだろう。そんなに読者を信用していないのか。中上健次の『熊野集』を見てみたが、“人間が人間を殺すことは法律で禁止されています”なんてことは一言も書いてなかった。当たり前だ。小説なんだから。そして“この作品は実話をもとにしたフィクションであり”云々。テレビのドラマみたいだ。
 次に魔法のiらんどの紹介文。「現在40万以上の小説が公開、その中から優れた作品が続々書籍化されている」とあった。で奥付、2006年10月17日初版第1刷、2008年1月25日第31刷発行。31刷で140万部ということは、増刷につき平均4万5000部か。羨ましい。本気で羨ましい。最後に自社広「女子中高生に話題の本」5点。これで上巻を読み終えた。

恋空〈上〉―切ナイ恋物語