『恋空』をじっくり読む7 ラスト

 ※かなりストーリーについて触れるので、これから『恋空』を読もうと思っている人は、下の文章は読まない方がいいです(最初は→『恋空』をじっくり読む1)。
 
 いよいよ「最終章 恋空 koizora」。
 さて、年が明け、成人式を終えた美嘉は着物を着たままヒロの待つ病院へ。ノゾムを介添えにプチ結婚式をあげる。
 ヒロにプレゼントしようと編み始めた毛糸の帽子が3分の1ほど完成した9月中旬、ヒロに3日間の外出許可がでる。1,2日は家族と過ごし、3日目に美嘉のもとへ。二人の思い出の場所、母校、図書室、そして川原へ向かう。弁当を食べているとき、「俺、まだ死にたくねぇよ…」とヒロが初めて弱音をはく。「ヒロは死なない…死んだりしない…死なせない。生きる…絶対に…」、で、「ヒロ…チュウして??」、「だから、ね。我慢しなくていいの…」、「美嘉、愛してる」「ヒロ、愛してる…」、そして二人は一つになった。末期癌の患者と、川原で……死期を早めるんじゃないか。ちょっと信じられないが、結果よりもその場の欲望を優先してきた二人ならあり得るか。そういえば、どうでもいいような細かいエピソードが山ほど書き込まれている作品なのに、避妊の描写は全然出てこないな。で、病院への帰り際、「あんなに広くて大きかった背中が、夕陽に当たってなぜかとても小さく感じたんだ」。なぜかって、病気だからでしょ……。
 10月、編んでいる帽子が明日完成という日の夜、ヒロが遠くへ行ってしまう夢を見る。で、病院にいくと、朝方急に容態が悪化してヒロは死んでいた。
 こっからが長かった。出会った頃からの回想が延々と続き、ヒロが高校時代から書き続けていた日記も出てきた。そしてヒロの死から1ヵ月後、美嘉の妊娠がわかる。もちろん「産みます!!」。で色々回想があって、「ヒロ!またね!」で終わりかと思ったらまた出会いのシーンから回想。最後にプロローグで出てきたような独白があって、「ねえ、/私は今でも恋してるんだ。/赤ちゃんのいる空に…/大好きなあの人がいる空に…/空に…/恋してるんだ。/恋してるんだ。/恋空…/完結」。これで、自己中二人が周りを振り回し続ける、という物語も終幕を迎えた。結局、衝撃的な結末ってどれだったんだろう?
 
 作品本文の後に「あとがき」があった。「小説として書き始めた理由は、旅立ってしまったヒロにも届くのではないかと…そんな小さな願いがあったから」とある。著者はこれを小説だと思って書いていたようだ。まあ、なんでもありなのが小説、ともいえるか。また、「ヒロが旅立ってからすぐに恋空を書き始めた」ともある。そして、最後にできた赤ちゃんは、最終的に「ヒロのいる天国に逝ってしまいました」と書いていた。てことは、本当に川原でセックスして妊娠したのか。それとも、あとがきまでもフィクションなのか。それはそれで面白い。語り手が犯人の推理小説もあるし、SF小説なんかにはこれより荒唐無稽な話がいくらでも転がってる。『恋空』を読み始めたときは小説というより戯曲だと思ったが、むしろ神話かもしれん。衝撃的な結末とは、この「あとがき」のことだったのか。
 
 次ページからは上巻と同様、“ユニセフ”、“飲酒、喫煙”、“実話をもとにしたフィクション”、“魔法のiらんど紹介文”。で奥付、2006年10月17日初版第1刷、2007年12月28日第27刷発行。おっ、編集者の名前が書いてある。大変だっただろうな。葛藤で。察します。私なら断るよ。最後に自社広「女子中高生に話題の本」5点。
 これですべてを読み終えた。とうとう完走した。生まれて初めて、自分で自分を誉めてあげたい気分だ。
 
 『恋空』、実話をもとにしたフィクションらしいが、中学生が頑張って書いたケータイ妄想日記って感じだな。だからストーリーをとやかくいうつもりはないけど、やっぱり表現力なんだよな。とにかく言葉の取捨選択の基準がむちゃくちゃに甘い。文章は冗長(冗短か?)で無駄な会話やくどい独白が延々と続くわりにストーリーは結構早く進んでいく。『ユリシーズ』や『死霊』と真逆だ。下巻はストーリー展開がとろくなって同語反復の独白ばかりが目立つ。ケータイサイトへの連載形式ならまだいいかもしれないが、これを単行本で読むにはかなりの忍耐力が必要だ。
 何を書くも本人の自由だからいいんだが、それをそのまま出版してしまった出版社の責任は大きいんじゃないか。これでは著者が可哀想だ。日本中に恥をさらすようなもんだよ(と思ったら案の定、amazonのレビュー欄で袋だたきにあっている)。これが持ち込み原稿だったら、赤字を入れるどころか最初から書き直せっていうだろうな。もしくは、出版はあきらめろ、か。
 でも、これだけ売れたんだから別にいいのか。ちゃんと感動している読者もいるようだし、版元も著者も読者も、みんな満足しているんなら。しかし、こんな作品が出版されベストセラーになってしまう時代。こんな時代に私のような古くさい人間が編集者を生業としていていいのだろうかと不安になってきた。ケータイ小説の著者も読者も、編集者なんていう存在を求めてはいないんだろうな。「私たち、勝手に書いて勝手に読みます。何もわかってないくせにエラソ〜なおっさんは出てくるな」て感じなのかな。
 なんだか悪口ばっかりになってしまった。でも、エピソードは盛りだくさんだから、映画化には向いているかも。コンパクトに2時間ぐらいでまとめてくれれば、結構楽しめそう。映画版『恋空』、見てみようかな。

恋空〈上〉―切ナイ恋物語 恋空〈下〉―切ナイ恋物語 恋 空 スタンダード・エディション [DVD]

文庫版もあるようだ。スペシャルバージョン?
恋空―切ナイ恋物語 スペシャル・バージョン〈上〉 (魔法のiらんど文庫) 恋空―切ナイ恋物語 スペシャル・バージョン〈中〉 (魔法のiらんど文庫) 恋空―切ナイ恋物語 スペシャル・バージョン〈下〉 (魔法のiらんど文庫)

『君空』ってのも。続編か。しかし関連商品が色々出てるな〜。毒食わば皿まで。読んでみるか。
君空