『恋空』をじっくり読む2

 ※かなりストーリーについて触れるので、これから『恋空』を読もうと思っている人は、下の文章は読まない方がいいです(最初は→『恋空』をじっくり読む1)。
 
 さて、「一章 恋来 koirai」を読む。章扉、横組なのに漢数字なのが気になる。ページをめくると柱もそうだった。最初の見出しは「偽りからのスタート」。で、本文。

 「あ〜!! 超おなか減ったし〜っ♪♪」
 待ちに待った昼休み。
 美嘉はいつものように机の上で弁当を開く。
 学校は面倒だけど、同じクラスで仲良くなったアヤとユカと一緒に弁当を食べるのが学校生活の中で唯一の楽しみな時間だ。

 1行目でくじけそうになった。句点ごとに改行されているのはケータイ小説ならではの表現なんだろうか。会話とト書き。小説というより戯曲に近いかな。でもある意味、平成版の文語から口語への流れなのかもしれない。明治以降の口語文がいつの間にか文語文になっていたということかも。主人公の名前が著者名と同じ美嘉か。メタってる。美嘉は漢字なのに他の二人はカタカナなのはなぜだろう。とりあえず読み進める。
 美嘉は高校1年生になったばかり。「将来の夢なんてあるわけもない」。中学を出てすぐに髪を茶色に染め、淡いメイクもまだ馴染んでいない今日この頃。さすがに東京の高校生はませている。私の高校時代ならバリカンを持った先生に追っかけられるところだ。でも東京とは書いてないな。方言ではないから多分首都圏近郊が舞台なんだろう。
 女ったらしのノゾムが登場。カタカナでノゾムと書くと、ソドムみたいで不気味だな。そんな役回りなんだろうか。「ノゾムに気をつけろ!」「ノゾムにねらわれた女は逃げられない」すべてソドムに見えてゾッとする。そのすぐ後、“無造作”と言う漢字3文字分の中央に“むぞうさ”のルビ4文字が付いている。違和感あるなあ。
 最初ノゾムは美嘉に惚れていたようだが、途中からヒロというのが出てきた。“桜井弘樹”と漢字フルネームで登場。こいつは絡んでくるな。と思ったら美嘉とくっついた。ヒロの耳には数えきれないほどだくさんのシルバーピアス。イタイなあ。
 キーンコーンカーンコーン、とチャイムが鳴っている。平成の世でもやはりチャイムの音は一緒なのだ。
 しばらくして二人は一気にキス、セックスと進むが、そのときヒロは違う女の名前を呼んでしまう。咲(これは漢字)という元カノの名前らしい。
 じっくり読むのが面倒になってきたので早送りで進める。
 ヒロが元カノと別れたというので正式につきあい始めた美嘉だったが、ある日4人の男に拉致されてレイプされ、その様子を写真に撮られる。ズタボロの美嘉をヒロは自分の家に連れて帰ると、ヒロの姉のミナコが自分も同じようなことがあったと慰める。自分は汚れてしまったと思い、心の傷口が癒えない美嘉。ミナコはレディースの番長(レディースも“番長”っていうのか)で、ヒロとともに復讐に立ち上がる。ちょっと強引なストーリーだが、ご都合主義のオンパレード・須藤鐘一の『女難懺悔』ほどではない。まだ十分許せる範囲だ。というより、結構面白いじゃないか、『恋空』。
 犯人に殴られた顔の傷痕にバンソウコウを貼って学校へ行った美嘉を見て、アヤとユカが一言。

 「「どうしたの? 大丈夫!?」」

 一瞬カギカッコの中は二重カギカッコか小カギだろうと思ったが、これはアヤとユカが同時にしゃべったことを表しているのだと気づく。新しい。
 それはさておき犯人が見つかった。なんとヒロの友達で、咲に金で買われて犯行に及んだのだ。撮られたと思った写真は「フィルム入れてなかった」とのこと。ホントか? しかし、デジカメかと思いきや実は銀塩だったのだ。高校生が銀塩カメラ。この意外性が逆に小説のリアリティを女子高生たちに感じさせるのだろう。多分。ちがうかも。
 その後も咲の嫌がらせは続き、入退院、自殺未遂までする美嘉。まいっている美嘉の前にタツヤという同級生が現れてちょっかいを出すが、すったもんだでタツヤは退学する。より絆の深まった美嘉とヒロは学校の図書室で愛し合う。「幸せで泣いたのは、初めてだよ」と美嘉。どっかで聞いたような台詞だが許す。本だけは汚さないでください。
 続きは明日読もう。ちょっと飽きてきた。

恋空〈上〉―切ナイ恋物語