ダダ・シュルレアリスム ―変革の伝統と現代

 『ダダ・シュルレアリスム―変革の伝統と現代 (1971年)』(トリスタン・ツァラ/浜田明訳、思潮社)。

 Tristan Tzara: Le surr?alisme et l' apr?s-guerre, Ed. Nagel, 1947 の全訳。トリスタン・ツァラが、1946〜7年にソルボンヌ、ブカレストプラハで行った講演原稿を中心にまとめたもの。ダダの創始者の一人であり、シュルレアリスムに道を開いた詩人ツァラが、それら自らが関わってきた芸術運動を総括する、といった内容だ。面白いのはその文字組版で、最初と最後のページからそれぞれ天地を逆に本文が印刷され、中央で出会うという凝った構成になっている。装丁は清原悦志氏。左右両開きのような形だが、中央の訳者あとがきは天綴じ縦組形式、写真と書誌は天綴じ横組形式。原書はどうなっているんだろう? いずれにしてもヘンな作りの本だ。

平成3年5月2日、後天性免疫不全症候群にて急逝された明寺伸彦博士、並びに、

 『ダダ・シュルレアリスム』のついでにもう一つ両開きの本を。『平成3年5月2日、後天性免疫不全症候群にて急逝された明寺伸彦博士、並びに、』(石黒達昌福武書店)。

 芥川賞候補作である表題作が横組の左開き、その他2作品「今年の夏は雨が多くて」と「鬼ごっこ」が縦組の右開きになっている。装丁は菊地信義氏。表題作は“ハネネズミ”の絶滅をくい止めようとしながら結局できない研究者たちをレポート風に描いたもので、数々の種を絶滅させてきた人間の身勝手さと無力さを描いているように見えるが、架空の動物であるハネネズミは人間のメタファーとしても読むことができる。やけに題名が長いのは、もともと無題で作品の冒頭の文章を採っているからだそう。そういえば、同じ著者で「イスラム教の信者、ユダヤ教の信者、キリスト教徒など、神と終末の日とを信じ善を行う者は、その主のみもとに報酬がある。彼らには恐れも悲しみもない」という“無題”の作品(『海燕』1994.10)もあった。中東の架空の国家を描いた話で、この国も日本のメタファーのようだった。これまた面白い作品だったけど、単行本になっているんだろうか?
ダダ・シュルレアリスム―変革の伝統と現代 (1971年) 平成3年5月2日、後天性免疫不全症候群にて急逝された明寺伸彦博士、並びに、