本の目利き

 ワケあって3月半ばから急にヒマになったので龜鳴屋本を続けて読んだ。伊藤人譽氏の『馬込の家 室生犀星断章』『續人譽幻談 水の底』。選び抜かれた言葉、無駄のない的確な比喩など、素晴らしい日本語に何度もシビレた。擬古文調の『稚兒殺し 倉田啓明譎作集』もなかなかの味わい(別冊は読みにくかったが)。で、ずっと読みかけで放っておいた『藤澤清造貧困小説集』に再挑戦。いくら読み進めても借金に失敗する話ばっかりで一度は挫折したのだが、今回はなんとか読了できた。藤澤作品で最初に読んだ『根津権現裏』も前半はよかったが後半になって描写のあまりのしつこさに辟易した記憶がある。どうも藤澤清造は体質に合わないみたい。でも続刊予定にある『根津權現前より─藤澤清造随筆集』、出たら買ってしまうんだろうな。龜鳴屋から出る本はまず外れがないからついつい買ってしまう。龜鳴屋HPには最新刊が第7冊目とあったが、そのうち6冊読んでいた。ほとんどコンプリート状態だ。
 次に読んだのが『月光に書を読む』(鶴ヶ谷真一平凡社)。これがまたよかった。書名からして素晴らしい。感動的な「古書店の思い出」など著者自身の話もよかったが、なんといっても著者の引用する文章がことごとく光っている。特に「素白点描」にある岩本素白の文章には惚れ惚れした。こんど素白本人の作品をゆっくり堪能してみたい。
 知らなかったいい本を教えてくれる、こんな目利きの存在は本当にありがたい。

月光に書を読む