ネットの力に魂消る

 本館の方のカウンターが異様なスピードで増えていくのでアクセスログを調べてみたら、オマケで載せていたお薦め本リストのページにアクセスが集中していた。はてなブックマークにエントリーされたのがその原因のようだ。1時間に1000アクセス。1000までしかカウントできないので、実際にはもっと多い。ネットの力に正直タマゲた。
 このリストの元を作ったのは私が30歳の時だから、いまから7年前だ。小説というものをほとんど読んだことがないという友人の、「惚れてるコが小説好きみたいだから、口説くにあたって自分も小説好きになりたい。そのためのリストを作ってくれ」という実に不純(純粋?)な動機に応えるため、面白半分で作ったのが“正統派小説好きになりたい人の為の50冊”で、「これを上から順に読んでいけば、いつのまにか小説好きになってるよ」といって手渡した。
 小説に限らず、読書というのは訓練だと思う。読書をすることが訓練なんじゃなくて、訓練を積むことで読書の楽しみが増えるというのかな。割算の前に掛算を覚えなければならないように、段階を踏まないとわからない楽しさもある。いきなりその友人に『死霊』(埴谷雄高講談社)や『陥没地帯』(蓮實重彦河出文庫)なんかを薦めても、逆効果な気がする。『陥没地帯』なんて私がこれまで読んできた中で最も詰まらない小説だ。だからリストには入れていない。少し時間が進んでは元に戻る、何度も何度も反復される情景描写に辟易しながら、なんとか最後まで辿り着けた作品だった。でも、時々(数年に一度かな)、無性にその進まない時間の中にまた身を置きたくなって読み返してしまうのだから、不思議な作品ではある。でも詰まらないことに変わりはない。というか、この作品を楽しめる境地にまだ達していないのだろう。
 このあたりの感覚は、最近読んだ『読書の腕前』(岡崎武志光文社新書)に、とてもうまく書かれていた。色んな本をとにかくたくさん読むことで、確実に“読書の腕前”は上達するということ。そしてその上達にはキリがなく、いつまでも途上でしかないということ。
 たぶん今、お薦め本のリストを作ると、「正統派小説好き〜」とは少し違ったラインアップになるだろうし、10年後はまた別の作品を選ぶんだろう。でもやっぱり、初っぱなを飾るのは『ひげよ、さらば』(上野瞭新潮文庫)だろうな。

死霊(1) (講談社文芸文庫) 『陥没地帯 (河出文庫―文芸コレクション)』 読書の腕前 (光文社新書) 『ひげよ、さらば―猫たちのバラード〈上〉 (新潮文庫)