活版印刷

 先月の13日、和歌山に縁のある人々の集まりに呼んでいただいた。私の母校である新宮高校の大先輩が中心なんだけど、新高出身者に限定しているわけではなく、和歌山に多少なりとも関係のある人たちの集まりだった。
 そのとき知り合った人の中に「詩人」の方がいた。自称ではなく、ちゃんとした詩集を出している詩人の方と出会ったのは生涯で2度目だ。「詩人」という言葉には、何ともいえない不思議な響きがある。私たちとは違う、なにか得体の知れない別の生き物(失礼!)のような感じだろうか。翌日、さっそくその方が書いた詩集『流体』を注文したのだが、3週間経ってやっと、昨日手元に届いた。いま読んでいる本が終わったらこの詩集を読むつもりなんだけど、とりあえずぱらぱらとめくってみた。刊行が1997年で版元が思潮社だったから、取り寄せるときからもしやと思っていたら、やっぱり活版印刷だった。少し得した気分。活字で印刷された文字はやっぱりいい。ひと文字ひと文字がくっきりしているし、ぜったい字間が詰まらない律儀なところも気持ちいい。
 昨年、知人に薦められて古書で買った『鹿鳴館の系譜』も活版だった。文藝春秋から1983年に刊行されたものだ。内容も面白かったが、とくに嬉しかったのは活版印刷された精興社の明朝体を堪能できたこと。ものによっては寄り引きがオヤッ?というバランスの文字もあるけど、これがクセになると堪らない。筑摩書房版の坂口安吾全集も精興社の明朝体でとても心地いいんだけど、こちらはオフセット印刷。やっぱり活版の精興社明朝は格別だと思う。
流体』『鹿鳴館の系譜―近代日本文芸史誌 (1983年)