安吾のいる風景

 『安吾のいる風景』(坂口綱男 文・写真、春陽堂書店)を読んだ。自称「作文アレルギー」という坂口綱男氏だが、なかなかどうして、簡潔で無駄がなくユーモラスな語り口にのせられ、一気に最後まで読んでしまった。「フールオンザヒル」云々とかお好み焼き「染太郎」で安吾が良い文章のコツを伝授する話とかケッサクだった。
 もちろん本業だけあって綱男氏の写真も良かった。寄居浜の安吾碑を後ろから撮った写真なんか、胸にジーンときた。シャッターを切りながら、現実では成らなかったお父様との会話を楽しまれているような、そんな雰囲気が伝わってくる写真集だった。
 最後になぜか「桜の森の満開の下」が全文掲載されていた。とても好きな作品ではあるのだけれど、せっかくなら綱男氏の書き下ろしエッセイとか撮り下ろし写真を載せてくれれば良かったのに。そこだけが残念だった。
安吾のいる風景