美篶堂セミナー『工房雑話』

 前回に引き続き活版印刷。美篶堂セミナーシリーズ02『工房雑話─嘉瑞工房 高岡昌生』「知識だけではないタイポグラフィーの話」に行ってきた。内容は活版印刷による欧文組版タイポグラフィについての四方山話といったもので、詳しくはすでに田中栞さんがブログで書いているのでこちらをどうぞ。アンテナからも行けます。
(追記:その後色々あったみたいです。このサイトから行って8日の記事しか見ていない方は、もう一度訪れてみてください。田中さんの謝罪の言葉が掲載されています。)
(再追記:その後、記事ごと削除されています。要は田中さんが誤植だと思った部分が実はそうではなかった、ということです。詳細は「「誤植」とご指摘を受けたカンマについて」をどうぞ。オリジナル・カスロン Caslon old face italic に関するとても深くて面白い話です。)
 ひとつだけ、とくに印象に残った話。高岡昌生さんは、5〜6年前のある一件以来、他人の仕事、欧文組版に対して批評をしなくなった。その一件とは、昌生さんが知人のデザイナーから、自分(デザイナー)がデザインした書籍の欧文組版を見て批評をしてほしいと頼まれたときのこと。これを頼りにされている証拠と嬉しく思った昌生さんが、依頼を引き受け工房に帰って重蔵さんにそのことを話すと、こうたしなめられたのだそうだ。
 「お前はその文字を実際に組んだオペレータを知っているのかい? たとえその組版に欠点があったとしても、オペレータに何か事情があったのかもしれない。書籍の制作には、クライアントの意向等々、色んな縛りがある。出版社、デザイナー、オペレータそれぞれが色んな事情を抱えている。たとえば、コストの制約からページ数を減らす必要があり、文字を小さく行間を詰めざるをえなかったのかもしれないよ。そんな事情を知らない人間が、安易に批評なんかしてはいけない」(この台詞、言い回し等は正確ではありません。記憶を頼りに書いているので、あしからず)
 どこまでも謙虚で、他人を思い遣る重蔵さんの姿勢に感動した。そしてきっぱりと批評をやめた昌生さんも立派だと思った。そんな他人を思い遣る姿勢は、「読んでいただく、見ていただくタイポグラフィ」と語る昌生さんにちゃんと引き継がれている。いやあ、なんていい親子関係なんだ、と、ちょっと羨ましくなった。
 そういえば、シリーズものの書籍で、本文を9ポで組んで版面の見本を作った時、高齢の相談役から「字が小さくてこれじゃ読めない」と言われ、“ユニバーサルデザイン”だと自分に言い聞かせながら10ポで組み直したことがあったな〜。(シリーズ最新刊では内緒で9.5ポにしてしまったのだが……)