「雰」が気になる

 最近になって初めて『すべてがFになる』(森博嗣講談社文庫)を読んだ。で、すっかりはまり、とりあえず犀川創平&西之園萌絵のS&Mシリーズ10冊はひと通り読み終えた。んなアホな、というような強引なトリックもあったけど、謎解きどうこうより森作品の雰囲気が気に入ったので、そのうち他のシリーズも読んでみようと思う。S&Mシリーズの新作って出てないのかな?
 講談社文庫の森作品を読んでいて、いつも引っ掛かったのが「雰囲気」の「雰」の字。雨と分がえらい離れていて気持ち悪い。どこの書体だろう? 本蘭明朝っぽいけどこの「雰」も? まあ内容とは関係ないので大した問題ではないのだが。
 ミステリーばっかりというのもなんなので、久しぶりに「文学作品」っぽいのを読むことにした。せっかくだから活版印刷&精興社のものをと思って、本棚から『詩趣酣酣』(塚本邦雄、北澤圖書出版)を出してきた。去年ブックハウス神保町の半額コーナーで見つけて、あとがきの、

またこの書、永らくの精興社活版印刷による私の著書の最後の一册となる。謝意を含めて、記念したい。この後は一切寫植印刷となるはずである。

という文言に惹かれて買った本だ。
 『詩趣酣酣』の発行は1993年9月。精興社が活版をやめるのは1995年の8月らしいから、その2年前にはすでに活版部門を畳むという話が出ていたということか。同じ著者の『紺靑のわかれ』(塚本邦雄中央公論社)も見てみたけど、これは精興社じゃなかった。1972年発行で「本文整版印刷大日本法令印刷」とある。製版ではなくて整版というところがいかにも活版らしい。印刷はこっちの方が丁寧かも。『詩趣〜』の次はこれだな。
 読みたい本や読まなくちゃいけない本はどんどん増えるけど、読む方が全然追いつかない。塚本氏の文章なんか、1ページ2分ぐらいかけてじっくり味わいたいとは思うけど、一方で速読術を会得したいなんてことも思う。速読と精読って一人の中で切り替えできるのかな? 「雰」の字一つでつまずいているようじゃ無理だろうな。

すべてがFになる (講談社文庫)詩趣酣酣』『紺青のわかれ (1972年)