王道の「僧侶」その後の展開

 昨年の3月に「王道の「僧侶」」を探そうと思い立ったのだが、結局見つかっていない。そこで方針を変更して『茶の本』(岡倉覚三、岩波文庫)を探すことにした。きっかけは今年の3月に弘南堂書店という古書店で買ったワイド版岩波文庫の『茶の本』(1991年発行)。字がおっきくて読みやすそうで、それに精興社の明朝体だったから迷わず購入した。いかにもその版面は、「わたくし元は文庫サイズの活版本でしたがフィルムにされ拡大までされてオフで刷られてしまいました」といった風貌だった。
 ワイド版を読み終えたあと、新刊書店に行って今の文庫版(2005年11月発行の103刷)を見てみると、大きさ以外は全く同じ「わたくし元は〜」だった。そこでこれの元になった活版本を探し始めたのだ。
 『茶の本』の活版本はすぐに見つかった。神田に行けばゴロゴロしていた。それも1冊100円から数百円程度と格安なのがうれしい。昭和4年に発行された1刷は、現在も書店に並んでいる103刷とは版面も文字面も全然違っていた。103刷の元になったのは昭和36年に出た改訂版のようだ。いま手元には1刷(昭和4年)、改訂版44刷(昭和40年)と51刷(昭和48年)がある。改訂版の初刷(通算で38刷。版が変わってるのに刷り数が継続しているのでややこしい)が欲しいんだけど、これはまだ見つかっていない。文庫だからいきなり紙型鉛版だと思うが、なるべく原版刷りに近い、刷りの奇麗なものを見てみたいのだ。
 改訂版の初刷と共に、もう一つ探していたものがあった。活版→フィルム→オフではない、DTP(or 写植)+オフというオフセットの王道で刷られた『茶の本』だ。100刷を超えているような本をいまさら新組にはしないだろう、こればっかりは古書を探すよりも難しいかも、なんて思っていたのだが、これが出たんです。
 先日岩波ブックセンター信山社に立ち寄ると、出入口すぐの棚に岩波文庫の新刊と復刊(増刷)分が平積みになっていた。その中に『茶の本』があったので念のため手にとって開いてみると、あきらかに純粋オフセット印刷(多分DTP+CTP+オフ)ではありませんか! 奥付には「2007年4月5日105刷改版発行」とあった。岩波書店さん偉い!と心の中で拍手喝采。あとは改訂版の初刷(38刷)が見つかるのを待つのみ。それが見つかったら、「同じ作品で活版とオフセットではどれくらい印象が違うのか」という昨年来の課題についてレポートしたいと思います(しかし誰も興味ないだろうな……)。
茶の本 (岩波文庫)